SSブログ

「足利大岩毘沙門天俳額」のあらまし [一茶]

「足利大岩毘沙門天俳額」のあらまし

(画像)→ https://yahantei.blogspot.com/2012/10/blog-post_876.html

足利大岩毘沙門天俳額」のあらまし

「俳額」(はいがく)とは神社や仏閣に祈願のため奉納した俳諧(連句)や発句(俳句)を記した額のこと。奉納和歌・奉納連歌へと引き継がれ、その余風は現代にまで及んでいる。作品を扁額に掲げるものを俳額(又は掲額)といい、神灯に記すものを奉灯という。そもそもは、音楽や詩歌などを手向け神仏の心を和らげようとする法楽思想に基づいたものであったが、当時広く行われていた奉額句合わせは,一般から投句を募集し、選者の選句を経て、清記・掲額に至るのを通例としていた。

 しかし、この足利大岩町の最勝寺(通称大岩毘沙門天)に文化七年(一八一〇)三月に奉納された俳額(整理番号二十五)は、当時の一般的な奉額句合わせのものとは別種のもので、願主(足利の六名の俳人)が諸国の著名な俳人(六十三人)に出句を依頼して奉納掲額をしたもので、その出句依頼への謝礼だけでも相当な出費を要したことが容易に推測され得る貴重な俳額といえるものであろう(丸山・前掲書)。

 内側は縦五十五センチ、横一八〇センチで、頭書に「奉納俳諧之発句」とあり、末尾に「文化七歳庚午三月」と年記し、「東苑源道書」とある。そこに記載されている句と作者は次のとおりである。
(便宜上、句頭に整理番号を付して、適宜、その詠みを付した)。

 一 我影(わがかげ)はなべて桜の木の間かな       尾張  士朗
 二 秋の夜のあはれに負(まけ)て寝たりけり       京   蒼?
 三 みよし野の始(はじめ)は知らず花の春        江戸  完来
 四 花二つ頓(やが)れてすれあふ牡丹かな        大阪  尺艾
 五 初ざくら花の世中(よのなか)よかりけり       伊予  樗堂
 六 木(こ)がらしやたヾ白妙(しろたへ)のふじのやま  薩摩  關叟
 七 かくれ家に大き過(すぎ)たり雪の笠         甲斐 可登里 
 八 咲(さく)けしの花の底までひとへかな        伊賀  若翁
 九 名月や古郷(こきゃう)の空も水のうへ        信濃  素檗
一〇 巾厨(かや)かして遊び明(あか)すや星一夜     和泉  喜齋
一一 尾上(おのへ)よりはやみる風にほとゝぎす      陸奥  冥々
一二 花を切つて蘭を養ふ夕(ゆふべ)かな         尾張  岳輅
一三 うしろには松の上野を冬籠(ごもり)         江戸  成美
一四 西とみへて日は入(いり)にけり春の海        京   百池
一五 秋の日の見事に暮(くれ)て月夜哉          大阪 八千坊
一六 日の暮(くれ)ておもへば多きさくら哉        加賀  雪男
一七 皆起(おき)よ車見せうぞ淀の月           大阪  長齋
一八 名月や芦のひと夜を塩肴               京   岱季
一九 草臥(くたびれ)て夜は寝入歟(ねいるか)木々の蝉  近江  鳥頂
二〇 いつまでもいつまでも(※おどり記号)鶴は和哥の浦  尾張  竹有
二一 雪風がまだうしろふく山ざくら            上野  鷺白
二二 おもしろふ時雨て来たり旅の馬            長崎 台(※革編)風
二三 吉野やま松より花の年古(ふる)し          阿波 八朔房 
二四 霧分(わけ)てわが馬なづむゆふべかな        近江  蜃州
二五 鹿鳴(なき)てながめられけり夜の山         京   瓦全
二六 夜桜や雉子もなかずは居られまじ           兵庫  一草
二七 夕立や山わかれせし鷹二つ              信濃  柳荘
二八 □や何ひとつなき砂のうへ              尾張  臥央
二九 元日は嬉し二日はおもしろし             京   丈左
三〇 家五尺あとへひかばやむめの花            三河  卓池
三一 はつ茄子(なすび)ほろりとにがき斗(ばかり)也   京   月峰
三二 夏山やものいはぬ人のふたり行(ゆく)        大阪  魯隠
三三 油なき明(あか)りに似たりあきのやま        出羽  長翠
三四 うれしさは神路の山にけふの菊            相模  葛三
三五 文月や海山ひとり秋の月               安芸  篤老
三六 花守の木がくれあへて見ゆる也            筑前  瑞芝
三七 雪ゆきを打てけぶれる林かな             江戸  午心
三八 引汐(ひきしお)の果なく霞む夕(ゆふべ)かな    播磨  玉屑
三九 きのふまで松の上野の初ざくら            江戸  春蟻
四〇 濡(ぬれ)てこそ蜑(あま)が子といへ夏の海     奈良  空阿
四一 初月とまではなりけり浦の家             大阪  奇淵
四二 出て見れば小雨ふる也花月夜             筑前  萬井
四三 涼しさや何見ても灯は捨(すて)られず        長門  羅風
四四 柳みて居ればくれ行(ゆく)堤かな          京   其成
四五 露けさや秋は夜がちの草の家             大阪  升六
四六 稲妻や豆に兎のつきそむる              甲斐  嵐外
四七 閑居鳥水こちこち(※おどり記号)と東洩る      伊勢  丘高
四八 こはごは(※おどり記号)に空にこぼれてけふの月   大阪  瑞馬
四九 翌(あす)かあすか(※おどり記号)とまではきのふの初桜 江戸 定雅
五〇 名月の御覧の通り屑家哉               江戸  一茶
五一 たち葉たれ葉ばせを秋立(たつ)けしき哉       南部  平角
五二 名月やくらぶるものは山と水             近江  志う
五三 夜明たらふたつになるやほとゝぎす          江戸 はまも 
五四 ははその木限(かぎり)は雪の梢かな         武蔵  星布
五五 何処までも月の下也鳴(なく)千鳥          能登  寒崖
五六 大原や人へは吹(ふく)にはるの風          周防  鯨牙
五七 散(ちる)さくら月もおしみて明残(あけのこる)   豊後  不騫
五八 忘れたぞ花にさくらに草の庵             大和  萬和
五九 啼聞ふ木曾の檜笠とほとゝぎす            江戸  巣兆
六〇 腰の螺(ほら)菫つむにはむつかしき         陸奥  乙二
六一 けふの月扨(さて)もおしまぬ光かな         江戸  道彦
六二 名月や是をむかしの秋の月              大阪  麦太
六三 香を踏(ふみ)て蘭に驚く山路かな          同   月居 
① 夕暗(ゆふやみ)やぬれぬれ(※おどり記号)しくもきヾす鳴(なく)  
                             足利  和井
②  十ほどの蝶が皆舞ふ真昼かな                 麦茂
③  古池を競(きそふ)なるらむ百合の花             春山
④  長閑(のどか)さやよくよく(※おどり記号)聞けば霍(つる)の声
                                 左鶏
⑤  初厂(はつかり)や月のおかしき水の上            徐来
⑥  石亀を水もはなれよ友ちどり                 里山
⑦  花ぐもりよろず桜を恋にせん                 まさき
⑧  うぐひすや有明の戸に竹のかげ                官鯉
⑨  大空や花のあけぼの押出(いだ)し              雄尾
タグ:一茶
nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:趣味・カルチャー

「一茶撰集」等における短句(七七句) [一茶]

「一茶撰集」等における短句(七七句)

〔『たびしうゐ』〕:寛政七年(一七九五)・一茶撰                    
(「月うつる」の巻)                             
 1 風こゝちよき入梅晴(つゆばれ)の道                   

○久しぶりの梅雨晴れで、この旅路は大変に心地良い。
(この連句は「芭蕉堂之会」という前書きがあり、寛政七年三月四国から大阪に戻って来た一茶は、その 夏、京に上り、洛東芭蕉堂に闌更を訪問した時のものである。一茶は亜堂の号で闌更の発句に対して脇句で応えたものである。)                       

(「羅(うすも)の巻)                           

 2  身は涼風に任せぬる月                         

○あの月は、すっかり涼風に身を委ねているように見える。
(この連句には「浪華に足留ムアリ東に赴クアリ、共に是雲水」との前書きがあり、尺艾(しゃくがい)の発句に対する脇句である。)

〔『さらば笠』〕:寛政十年(一七九八)・一茶撰                      
(「蝶飛んで)の巻)                            

  3  長閑(のどか)過(すぎ)たるあちこちの雲              

○ どの雲も余りにものんびりした趣である。

  4  空なつかしきあけぼのゝ鐘                 

○ 空を見ていると懐かしい明け方の鐘の音が聞こえてくる。                 
  5  もっと咄(はな)せと枕くばりて 

◎ 寝ながらでもその話しの続きが聞きたいと枕なども用意してくれた。                       
(二句唱和の付句)    

  6  しばし手を組みひざをくむ月                    

◎ あまりにも名月なのでやおら手と膝を組みなおしました。
    
(「正月の」巻)   

  7  春風も夜はみぞれ也けり                            

○ 昼間の春風駘蕩とした陽気も夜になり霙となってしまった。              

  8  だらだら鐘の秋の涼しき                          

○ のんびりと間の抜けた鐘の音を聞いているうちに何時の間にか涼しい秋となってしまった。                                
  
  9  鮗(このしろ)やすき風が吹く也 

○ 鮗も良い値がつかない相場風となっている。                     

  10 小菊二枚に蟻を遊ばす       
               
○ 小さい和紙の鼻紙二枚に蟻を遊ばせている。                     

(「人の栖」の巻)     

  11 鶏(とり)三声程長閑也けり      

○ 鶏の三つ位の鬨の声以外は物音一つしない長閑な風景です。              

  12 一番船の貝(バヰ)のうれしき                    

○ 早朝の一番船の貝は何よりのものだ。     

  13 溝にづぶづぶ白芙蓉さす                          

○ その溝に白い大きな芙蓉の花をずぶずぶと差していった。                             
  14 三夜の夢に似たる暁     

  ○ 今日の暁は結婚して三日目の夜が明けた夢にも似た気分です。                           
  15 車に挽(ひか)スそばの白露     

○ 荷車に道端の白露が轢かれていくようです。                                   
  16 草履片々猿にはかれし

○ 私の草履を猿がカタカタと履いていってしまった。                                
(二句唱和の付句: 発句は闌更)

  17 東はいまだ寒げなる空 

◎ 東の空はまだ明けきらずどことなく寒々とした雰囲気だ。                             
〔『三韓人』〕 文化十一年(一八一四)・一茶撰  (「雪ちるや」の巻)    

  18 丸書(かき)なぐる壁の秋風      

○ 丸などを書きなぐった壁の落書きに秋風が吹いている。 

  19 大さかづきに入相の月   

◎ 大さかづきに日没時の月の影がさしている。                                   
(「江戸へいざ」の巻)  

  20 参り候御犬三疋(びき) 

◎ 御犬様三匹が只今まかり出ました。 

〔『菫艸(すみれぐさ)』〕  
 文化七年(一八一〇)・春甫撰                       

(「山路来て」の巻: 脇起し歌仙)

  21 なまぐさなべを水に浮(うか)して 

○ 魚臭い鍋を水に浮かしています。  

〔『木槿(むくげ)集』〕 
 文化九年(一八一二)・魚淵撰   

 一茶の短句は見当たらない。しかし、この集には、短句(七七句)を主眼とした次のような俳諧歌風の付句が収載されている。

(人もらぬ門田の鳴子明くれに) 

   おとづれたえず渡る秋風   

(難波潟あしの枯葉に波こえて)    

   光も氷(こほる)冬の夜の月   信胤 

(うつしうえて行末とほくことのはの)    

   ともとちぎらん和歌の浦松    公晴 

(海原や沖つしま山波遠く)       

   見渡すゑにしらむ黄雲(しののめ) 有実 

(鳴せみの声しぐれをさそひきて)     

   あきのけしきの森の下風      黄中 

〔『あとまつり』〕   
 文化十三年(一八一六)・魚淵撰  

(「御宝前に」の巻) 

  22 わらぢ掃(はき)こむ背戸の入海  

○ 裏の入口の方には海が開けていて履きこんだ草鞋がたてかけてある。 

  23 大福餅でまねく旅人

○ 大福餅を見せながら食べていきなさいと旅人に呼びかけている。

  24 連歌召せめせ萩も候

○ 萩が見頃で連歌でもやりましょうと誘っている。

  25 まうしあはせて羽織着る也 

○ 申しあわせて皆なが羽織姿である。

  26 鳩に節句をさする苣(ちさ)畑     

○ キク科のちしゃ畑は鳩の節句の恰好の餌場となっている

  27 ほまち祭りの小けぶりの月

○ 本祭りではない臨時の祭りに小さな煙りがたちこめ月も出ている。

  28 霰来よこようらの畑に

○ 裏の畑に霰よコンコンと降ってこい。    

  29 目利(めきき)の通り晴るゝ朝空    

○ 予想していた通りに朝の空は晴れ上がっていた。

  30 俳諧囀(さやづ)る雀うぐひす

○ 連句に興じているように雀と鶯とが囀っている。

(「朝明け」の巻)

  31 ざくざく砂利をあらふ陽炎

○ 陽炎のたっている日ザクザクと音をたてながら砂利を洗っている。

〔『杖の竹』〕
 文化十四年(一八一七)・松宇撰 

(「隣から」の巻)  

  32 山郭公(ほととぎす)大晴(おほばれ)の月                          
○ 山ホトトギスの声が聞こえてくる。空は雲一つなく月もかかっている。

〔『たねおろし』〕
 文化九年(一八一二)・素鏡撰   

(「見るうちに」の巻)

  33 種四五俵を漬ける門沼  

○ その門の前の沼地には四五俵の種を全部呑み込んだように蒔いてしまった。                     
  34 垣の代りに紫苑(しをん)咲(さく)也 

○ 垣根の代わりのように紫の紫苑が咲いている。

  35 かり着次手(ついで)にのぞく町内   

○ かり着をしたついでにその者の家の辺りの様子をうかがった。                           
  36 この赤壁にむだ書(がき)無用  

○ この赤壁に落書きはしないで下さい。 

  37 愚僧が畠もかすみ候  

○ この愚僧の畠もこの霞で見えません。   

  38 文の先にて島をかぞへる  

○ 手紙の先のところ指さしながら島が幾つあるか数えました。

  39 魚喰ひがてらさそふ旅笠     

○ 魚を食いながら旅笠などを見ているとそぞろ旅心がついてきます。                         
  40 そこは酒組(ぐみ)ここは餅ぐみ 

○ こちらは酒好き組みであちらは餅好き組みてす。

  41 撰集に入りし乞食(こつじき)の庵  

○ 撰集に乞食の庵の名で入選している。
タグ:一茶
nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:趣味・カルチャー

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。