「泥座のブログ」のスタート(田荷軒夢葱(むそう)耕衣居士) [永田耕衣]
○ 夢の世に葱を作りて寂しさよ 耕衣
「夢の世に葱を作りて寂しさよ」を発表した当時、加藤楸邨から称揚され、それ以来、耕衣の代表旬として喧伝されることになったわけだが、葱のあの清楚な青さと筒のある柔らかいふくらみ。また、ウドンにはなくてならない莱。それらが「貧」の品位を保っているという点で、耕衣が殊のほか愛した菜であった。じつは、耕衣が自身で生前に付けた戒名にも葱が入っている。
「田荷軒夢葱(むそう)耕衣居士」。
(『永田耕衣五百句』金子晋編)画→『泥 ディ』(永田耕衣書画作品集)
歌仙「夢葱仏」の巻
スタート 平成十九年十二月二十日
ゴール 平成二十年 一月十七日
発句 夢の世に葱を作りて寂しさよ 耕衣 冬
脇 病室の窓凍蝶の舞ふ 不遜 冬
第三 出雲より届きし鈴の音ならん 宣長 雑
四 吾が古里の群青の海 不遜 雑
五 玲瓏と地球は月に変身す 宣長 秋月
六 爽籟耳にカフカ読み掛け 不遜 秋
ウ
一 一葉落つ今年の漢字「偽」とやら 不遜 秋
二 千の風より秋風の幣(まひ) 宣長 秋
三 福田某「温故創新」これいかに 不遜 雑
四 蒙古相撲は真っ当に受け 宣長 雑
五 遠くまでいざ手をとりて逃避行 不遜 雑・恋
六 随従できぬ防人の妻 宣長 雑・恋
七 虚子が好きホトトギス好き単帯 不遜 夏・恋
八 四条河原の涼み月かな 不遜 夏・月
九 下々の客とはこれいかに一夜庵 宣長 雑
十 あらそうかいのうたのみもうそう不遜 雑
十一 花便りいつまで続くか今日五日 宣長 春・花
十二 しがない旅で菜飯を食おう 不遜 春
ナオ
一 颯爽と春駒に乗り出勤す 宣長 春
二 夜半亭にて瀬戸内九人 不遜 雑
三 酒の友竹馬の友も鎮魂歌 宣長 雑
四 防衛省の馬鹿さ加減よ 不遜 雑
五 けふもまたなんともなやなふぐと汁 宣長 冬
六 凍える鳥の馬関海峡 不遜 冬
七 坂の上その雲の上恋敵 宣長 雑・恋
八 ほんの戯れ一生の縁 不遜 雑・恋
九 犀星の純情詩集胸に抱き 宣長 雑・恋
十 わらわらと出る父のお迎え 宣長 雑
十一 長月の夜の小愛男(ささらえおとこ)ぞかし 不遜 秋・月
十二 水うまそうにのむ秋遍路 宣長 秋
ナウ
一 宇都宮より観音寺へ菊見便 不遜 秋
二 己が光を身に纏いつつ 宣長 雑
三 山の端の万葉公園日が暮れて 不遜 雑
四 春の鳥呼ぶ少年の声 宣長 春
五 振り返り振り返りつつ花盛り 不遜 春・花
挙句 雲紫の春の曙 宣長 春
留め書き
(不遜記)
連句の基本は両吟とよくいわれるが、それを実感した。それよりもなによりも、
連句は連衆によるともよくいわれるが、これまた、然り。やっていて楽しかった。
(宣長記)
平成20年1月17日 阪神大震災記念日 脇起こしに頂いた発句作者・故永田
耕衣(神戸・俳人) 罹災の日に満尾 今は亡き師に捧ぐ。
(不遜追記)
これは機縁ですね。耕衣大先達の発句で始まり、その満尾の日が、 阪神大震災記念日
でしたか。これは、天に居る大先達に、この歌仙のあらましが届いたのでしょうか。
耕衣大先達のその折りの傑作句を下記に掲げて・・・合掌。
白梅や天没地没虚空没
老松相愛するを見つ虚空没
共に死ねぬ生(なま)心地有り裏見の梅
脾肉をば支えの脾肉親切品(しんせつぼん)
死心地の肉体の夢梅の跡